評価が“査定の道具”で終わってしまう問題
人事制度の見直しを支援していると、「うちは評価制度が形骸化している」「結局、査定のための評価になってしまっている」という声をよく聞きます。
多くの企業に評価制度は存在します。しかし、その目的が「査定=給与を決めるため」に偏ってしまうと、本来の機能を果たせなくなってしまうのです。
評価は本来、成長のための仕組み
評価制度の本来の目的は、「社員の成長を促し、組織の成果を最大化すること」にあります。
つまり、給与を決めるための仕組みではなく、“成長のための対話を仕組み化するもの”です。
ところが現実には、「評価=査定」という構図が定着してしまっている会社が少なくありません。
期末に上司が部下の点数をつけ、給与やボーナスを決める。そのやりとりが終わると、評価表は引き出しにしまわれ、次の期まで使われることはない——。
評価制度が「一度きりのイベント」になってしまうと、社員は制度そのものに不信感を抱くようになります。
「どうせ点数で決まる」「上司次第で変わる」「頑張っても給与に反映されない」——こうした声が出るのは、制度そのものではなく、運用の目的がずれていることが原因です。

事例:制度を導入したのに、モチベーションが下がった会社
ある製造業のC社では、組織の公平性を高めるために評価制度を導入しました。
等級・評価・報酬を明確にし、「がんばった人が報われる仕組みを作りたい」という経営の思いから始まった取り組みでした。
ところが、制度運用の初年度、社員からは「評価面談が怖い」「数字で人を判断された気がする」という声が上がりました。
管理職も「部下の査定をつけることに時間がかかる」「評価コメントをどう書けばいいか分からない」と困惑。
結果として、制度導入前よりも組織の温度感が下がってしまいました。
原因を探ると、運用プロセスに“対話”が欠けていたことが分かりました。
面談は月1回のチェックインとしてではなく、期末だけの「査定説明の場」になっていたのです。
評価を“育成のツール”に変える3つの視点
評価を“査定の道具”から“育成のツール”に変えるためには、次の3つの視点が欠かせません。
①「結果」だけでなく「プロセス」を見る
結果評価だけではなく、プロセスでの行動・工夫・挑戦の過程を言語化することが大切です。
結果が出なかったとしても、次に活かせる学びがある。その姿勢を評価することで、社員は“チャレンジする勇気”を持てます。
②面談を「評価の説明」から「成長の対話」へ
評価面談の目的を「結果を伝える」ことから「次に何を伸ばすかを一緒に考える」場に変える。
一方向の通知ではなく、双方向の対話にすることで、社員の納得感とモチベーションが高まります。
③評価の目的を全員に伝える
社員が「なぜこの制度があるのか」を理解していないと、どんなに仕組みが良くても浸透しません。
制度導入時だけでなく、定期的に「この制度は組織と個人の成長をつなぐためのものです」と伝え続けることが重要です。
評価は“文化”である
評価制度は紙やシステムではなく、「会社の文化」を映し出す鏡です。
点数をつけることが目的になってしまえば、組織には“順位づけ”の文化が生まれます。
一方、成長の対話を重ねる会社では、“育て合う文化”が根づいていきます。
冒頭のC社では、制度を見直し、期中面談を月1回設定するようにしました。
上司が部下の目標進捗や学びを確認する“振り返りの時間”を制度に組み込んだのです。
すると、「自分の成長を見てもらえている」「上司との会話が増えた」と社員の声が変化し、1年後には退職率が大きく改善しました。
評価は制度ではなく、対話の設計です。
そこに本気で向き合えるかどうかが、制度が「絵に描いた餅」で終わるか、「文化」に育つかの分かれ道になります。
おわりに:点数ではなく、対話で育てる組織へ
評価を“査定の道具”で終わらせてしまうと、制度は社員の信頼を失い、組織の活力を奪ってしまいます。
しかし、「評価とは何のためにあるのか」を再定義し、対話を設計し直すだけで、制度は再び命を吹き返します。
評価は、会社と社員が“未来の可能性”を一緒に見つけるための仕組み。
点数ではなく、言葉と対話で育てる組織こそ、これからの時代に強くなる企業だと思います。


